体脂肪の代謝の仕組みを理解すると見えてくるもの
手を変え、品を変え、めまぐるしく登場する新手のダイエット法。
「また怪しいダイエット法が流行ってきたな」───既見感満載の光景かもしれませんが、怪しいと感じつつも、なぜか気になってしまいますよね。
「バキバキの腹筋、シックスパックを手に入れたい!」
「夏までにキュっと締まったクビレを作りたい!」
そんな素直な希望・期待と、センセーショナルなダイエット法の間で揺れ動く方って、きっと多いのではないでしょうか?
多くの方にとって大事なことは、
「期待して お金払って 挫折する」
という(五七五のリズムに乗った)負のループから抜け出すこと。
そこで私は提案したいと思います。
体脂肪の代謝の仕組み を理解した上で、科学的に見て妥当なダイエット法 を見分ける目を養う───いや、そこにとどまらず、自分自身で科学的に正しいダイエット法を組み立てられるようになれば良いのではないか? と。
ということで今回は、ガチのバイオサイエンスの論文や文献を読み漁って、体脂肪の蓄積と分解の仕組み
を体系化してお届けし、さらに現時点で科学的にエビデンスが示されているダイエット法
についてご紹介したいと思います。
体脂肪を蓄積する仕組み
まず最初に、私たちの体の中でどのようにして体脂肪が蓄積されてゆくのか説明したいと思います。
太ってしまう原因が分かれば、対策も打ちやすくなりますものね。
体脂肪の材料は糖分
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、体脂肪の材料は糖分(グルコース
=ブドウ糖
)です。
ちょっぴりバイオサイエンス分野の言葉も交えて、具体的に説明すると、糖分が分解されて出来るアセチルCoA
という物質が脂肪酸
に変換されます。
アセチルCoA
を合成されるのは、細胞の中のミトコンドリア
の中です。- 肝臓の細胞は
ミトコンドリア
の数が特に多く、通常細胞の10~20倍も持っています。 - 肝臓は豊富な
ミトコンドリア
を使い、脂肪酸をたくさん合成します。
肝臓を中心に体の中で合成された脂肪酸は、血流に乗って全身の脂肪細胞(=具体的には白色脂肪細胞
)に届けられます。
栄養状態が良い条件下では、白色脂肪細胞は受け取った脂肪酸を取り込み、中性脂肪(トリグリセド)を合成して貯蔵します。
体脂肪が蓄積される仕組みの基本は、上記の説明の通りとなります。
しかし、基本的な説明だけで終わっては、実に味気ない!
面白くなるのは、これからです。
神は細部に宿る
と言いますが、ディティールな所にこそ興味深い事実が秘められているものです。
血糖値と体脂肪合成スピードの関係
最近では、低GI食品
という言葉を聞いたことはありませんか?
GI
とは、グリセミック・インデックスという意味で、GI値が高い食品ほど、食後の血糖値が上がりやすくなります。
ダイエットと血糖値の上昇にどのような関係があるかといいますと、血糖値がおよそ145mg/dl
を超えると、脂肪酸の合成および中性脂肪の蓄積が活発に進んでしまうのです!
逆に、血糖値の上昇が緩やかで、145mg/dl
以下に抑えれば、脂肪酸の合成&中性脂肪の蓄積のスピードも穏やかになり、同じカロリーの食事でも太り方がかなり違ってくるのです。
さて、そのメカニズムですが、血糖値が上昇するほどインスリン
というホルモンが膵臓から多く分泌されます。
インスリン
には、強い同化作用、つまり栄養分を細胞に取り込むのを促す作用があります。
当然ながらインスリン
の量が多くなるほど、細胞は糖分(グルコース
=ブドウ糖
)を取り込みます。
そして、取り込まれた糖分は、細胞の中でアセチルCoA
となり、脂肪酸の材料になるので、取り込まれる糖分に比例して合成される脂肪酸の量も増えてしまいます(=中性脂肪の材料が増える)
脂肪酸合成のプロセスを知ると良いことがある?
ちょっとここで少しバイオサイエンスの領域の話に触れたいと思います。
科学的ダイエットの重要なヒントが秘められているからです。
脂肪酸合成のプロセスの中に、コントロールできそうな個所が見つかれば、それはダイエット効果に直結する可能性があるからです。
なるべく分かりやすく説明しますが、分かりにくい個所があったらごめんなさい。グーグル先生の助けを借りてください。
私たちの細胞の中には、取り込んだ栄養をエネルギーに変える回路が二つあります。
- 一つは、
解糖系
という回路です。- 酸素なしでグルコースをエネルギーに変えることができます。しかもかなりスピーディーです。
- ただし、バテやすいです。
- 短距離走の後、筋肉がパツパツになって焼けつくような感じになりますが、
解糖系
がオーバーヒートして、エネルギー生産が滞っている状態です。
- もうひとつは、ミトコンドリアが担う
クエン酸回路
です。- 酸素がたくさん必要ですが、栄養素をキッチリ最後まで燃焼させることができます(水と二酸化炭素になるまで燃焼を続けることができる)
- マイルドペースで安定的にエネルギーを生産できます。
- マラソンのような長距離走で活躍します。
この二つのエネルギー生産の回路が、脂肪酸合成にかかわっています。
細胞に取り込まれたグルコース(ブドウ糖)は、解糖系
で分解され、焦性ブドウ糖の異名を持つピルビン酸
になります。
このピルビン酸
は、ミトコンドリアに取り込まれ、クエン酸回路
に放り込まれます。
細胞の栄養状態が良いと、燃焼途中の物質 アセチルCoA
という物質が、ミトコンドリアの外に排出されます。
そして、アセチルCoAカルボキシラーゼ
という酵素の働きで、アセチルCoAがマロニルCoAになります。
続いて、ACPマロニルトランスフェラーゼ
という酵素の働きで、マロニルCoAがマロニルACPになり、脂肪酸(パルミチン酸)に変換されます。
専門用語が並んでかなり大変かもしれませんが、実はここにダイエットのヒントがあります。
アセチルCoAカルボキシラーゼ
という酵素の働きを、上手にコントロールすることで、中性脂肪合成の反応を入口でストップさせることができるからです。
それでは、アセチルCoAカルボキシラーゼ
の作用をコントロールして、科学的ダイエットにつながる方法を見て行きましょう!
酢の力で科学的ダイエット!中性脂肪の蓄積を防ぐ働きとは
酢を飲むとダイエットになるという話、聞いたことはありませんか?
以前流行っていた時期はあったけど、やっぱり散臭いダイエット法なのかと思いきや、酢のダイエット効果は科学的にも裏付けがあることが分かりました。
ざっくりと要約してしまうと、酢を飲むことで、先ほど触れたアセチルCoAカルボキシラーゼ
の作用を弱めて、中性脂肪の蓄積にブレーキをかける効果が期待できます!
今回は、具体的で分かりやすい論文をこちらで見つけましたので、重要なポイントを絞ってお伝えしたいと思います。
ラットの実験で示された酢のダイエット効果
論文中では、肥満状態のラットに対して実施した実験についてレポートが記載されています。
- 酢酸を与えたグループと、水を与えたグループに分けて比較したところ、酢酸を与えたラットのグループでは次の改善が見られました。
- 高血糖の解消
- 高脂血症の解消
- 血中コレステロールの減少
まったくもって良いことずくめですね!
ラットの体の中でいったい何が起きていたのでしょうか?
実験で酢酸を与えたラットのグループの体内を調べたところ、肝臓において脂肪酸合成酵素の働きが低下していたことが分かりました。
そうです、アセチルCoAカルボキシラーゼ
の作用が低下していたことが分かったのです。
他にも、脂肪酸合成酵素であるL型ピルビン酸キナーゼ
の作用の低下も確認されました。
毎朝、酢を水で薄めて飲むというダイエット法は、体脂肪の蓄積を防ぐことが期待できるわけですね。
酢がダイエット効果をもたらすメカニズム
ここから少し詳しい話に入ります。
バイオサイエンスの用語がちょーっと増えますが、ここを読んでおくとダイエットのメカニズムについてより深く理解できるのではないかと思います。
酢を摂取すると、肝臓で分解されるのですが、その時に AMP
(アデノシン-1リン酸)という物質が生成されます。
酢が代謝される際の反応(in 肝臓):
酢酸 + ATP + CoA ---> アセチルCoA + AMP + ピロリン酸
細胞のエネルギーであるATP
を消費して、AMP
が増えています。
酢の代謝が進むと、細胞内で AMP
が増えて、ATP
が減ります。
すると、AMP/ATP比率
が上昇していきます。つまり、ATP
が減ってゆくわけです。
ATP
が減少してゆくと、AMPキナーゼ
(AMPK)という酵素が活性化します。(=リン酸化される)
AMPキナーゼ
には以下の特徴があります。
- AMPキナーゼは、脂肪酸・糖の代謝をコントロールするエネルギー代謝センサー因子
- AMPキナーゼが活性化すると、脂肪酸合成が抑制され、分解が促進される。
- ATPを消費する脂肪の合成や糖新生といったプロセスが抑制される
ずばり言ってしまうと、酢を飲むと、体が飢餓状態と一時的に勘違いを起こして、体脂肪の蓄積モードから一転、体脂肪の放出モードに切り替わるということです。
さらに嬉しいことに、酢を摂取すると、酸素の消費量が増える、すなわち代謝が向上することがラットの実験で示されています。
ダイエットにとって、大変うれしい効果があることが分かりますね!
体脂肪分解の仕組みからダイエットのヒントを探る!
続いては、体脂肪分解の仕組みの理解を通して、科学的ダイエットのヒントを探ってまいりたいと思います。
体脂肪分解の基本的な流れ
栄養摂取によって血糖値が上昇すると体脂肪の合成と蓄積が進むことはすでに述べた通りです。
体脂肪の分解は、運動や絶食をトリガーにして進みます。より具体的には、血糖値の低下がトリガーになります。
血糖値の低下によって始まる体脂肪分解の流れは、ざっくりと説明すると次のようになります。
- 空腹や運動によって血糖値が下がると、
カテコールアミン
(=アドレナリンやノルアドレナリン)の血中濃度が上昇する。 - 脂肪細胞の表面にあるカテコールアミン受容体に、カテコールアミンが結合する。
- 脂質分解酵素リパーゼが作用をし始める
- 中性脂肪が脂肪酸とグリセリンに分解される
p1=>operation: 血糖値が下がる
p2=>operation: カテコールアミン(アドレナリンやノルアドレナリン)が分泌される
p3=>operation: 脂肪細胞のカテコールアミン受容体にカテコールアミンが結合する
p4=>operation: 脂質分解酵素リパーゼが作用を開始する
p5=>operation: 中性脂肪がリパーゼによって脂肪酸とグリセリンに分解される
p1->p2->p3->p4->p5
体脂肪分解の際、脂肪細胞で何が起きているか?
血糖値の低下を起点として、リパーゼによる体脂肪分解に至ることは分かりました。
では、リパーゼによる体脂肪分解の際に、脂肪細胞で何が起きているのか見て参りましょう。
ここには、太りやすい体質/太りにくい体質を左右するメカニズムが秘められているかもしれないのです!
体脂肪は、白色脂肪細胞
の中で脂肪滴
という脂肪の粒の形で貯蔵されています。
この脂肪滴
ですが、周囲を常にリパーゼに取り囲まれています。
それでは脂肪分解がいつも起きているように見えますが、実はタンパク質の鎧でガードを固めています。
その鎧のおかげで、リパーゼに晒されているにも関わらず、体脂肪をため込むことが出来るわけです。
そのタンパク質の鎧は、ペリリピン
と呼ばれるタンパク質でできています。
ペリリピン
は、脂肪滴に結合するタンパク質の中で最も多いものです。
脂肪滴は普段、以下の図のようにペリリピン
によってしっかりと保護されています。
それでは、血糖値が下がり、カテコールアミンが分泌されると、脂肪細胞ではどのような変化が起きるのでしょうか?
カテコールアミンによって脂肪滴の防御が解除される仕組み
カテコールアミンが脂肪細胞の受容体に結合すると、脂肪滴を保護しているペリリピン
の防御が一時的に解除されます。
すると、リパーゼが脂肪滴に接触することができるようになり、脂肪の分解が進みます。
太りやすさを制御するペリリピン遺伝子
マウスの実験によると、ペリリピン遺伝子をノックアウトしたマウスは(=ペリリピン遺伝子が発動しないように処置をしたマウスのこと)、やせ形のマウスになることが示されています。
脂肪滴を防御するペリリピンの働きが無いため、常時、体脂肪の分解が進んでいるものと考えられています。
一方、常にペリリピンの防御が無いので、カテコールアミンが分泌されても、体脂肪の分解のスピードに変化はほとんど見られない傾向が示されています。
人間においても、やせ形の人は、ペリリピンの働きが弱い遺伝子、言い換えればやせ形遺伝子
を持っているのかもしれませんね。(ちょっとうらやましい)
血糖値を抑える食事で脂肪蓄積を防ぐ
血糖値を下げることで、脂肪分解の仕組みが働き出すことが分かりました。
となると、先に述べたように同じカロリーでも血糖値が上がりにくい食事を摂ることで、体脂肪合成を抑制し、脂肪分解をより促すことがダイエット戦略として、非常に理にかなっていることが言えます。
低GI
食品を少しずつ普段の食事で増やしていくと、着実に体脂肪減少につながると思います。
そこで個人的にお勧めなのがプロテインです。
プロテインダイエット
という言葉も一時流行しましたが、プロテイン
には血糖値を抑え、体脂肪の蓄積にブレーキをかける効果を期待できます。
腹もちも良いですので、食欲コントロールの点でも優れモノです。
もちろん、世の中には低GI食品がたくさんありますので、お好みの低GI食品の組み合わせを探していきましょう!
まとめ
今回のエントリ内容をまとめると、次のようになります。
- 酢を飲むことは科学的ダイエット
- 食事を低GI食品に置き換えることは科学的ダイエット
- 血糖値は控えめが一番!
次回予告
今回調査した内容は、このエントリでは収まりきらないほどの範囲なので、次回エントリでお届けしたいと思います。
予定としては、「脂肪細胞にある刺激を与えると代謝がアップする!?」です。
脂肪をため込むだけかと思ったら、代謝を増やす働きもあるとは・・・体脂肪の秘密も奥深くて調べるのが楽しいですね!
それでは次回エントリをご期待ください!