概要
前回のエントリでは、新型コロナウイルスの世界各国の統計データから、救命率
を計算し、各国の置かれている状況について分析しました。
その結果、全体的な傾向として、日本をはじめとするアジアの国々と欧米先進国の間で、救命率に少なくない開きがあることが見えてきました。
中でも特に英国・オランダは救命率が低く、状況が厳しいことが数字からもうかがい知ることができました。
今回は、新たなデータを導入し、救命率
の時系列推移(=救命率が時間の経過とともにどのように変化していったのか)を分析し、各国の置かれている状況についてさらに踏み込んだ分析をしたいと思います。
[2020/04/03 追記]
知人のツテを辿り、オランダ在住の日本人の方から話を聞きました。
オランダ政府は、新型コロナ感染から回復した人の数を正式には発表していないとのことです。
ジョンズホプキンス大学が発表している数値は、聞き取り調査など、大学独自の方法で集計した数値の可能性があります。
そのため、現時点では、オランダの救命率については判断保留とすべき
と、させていただきたいと思います。
今回の分析のアプローチについて:ジョンズ・ホプキンス大学のデータを用いた救命率の時系列推移
今回新たなデータとして、米国ジョンズ・ホプキンス大学が公開している、新型コロナウイルスの感染状況のデータを使わせていただきました。
ジョンズ・ホプキンズ大学は、メリーランド州ボルチモアに本部を置くアメリカ合衆国の私立大学である。1876年に設置された。世界屈指の医学部を有するアメリカ最難関大学の一つであり、脳神経外科学、心臓外科学、小児科学、児童精神医学などの学問を生み出した。(Wikipediaより)
データはこちらで公開されています。
救命率
の計算は前回同様以下の計算式に従います。
Resuce Ratio(救命率) = \frac{TotalRecovered(治癒した患者数)}{ClosedCases(治療が終了した患者数)}
前回のエントリとの違いは、救命率
が時間とともにどのように変化したのかを追跡している点です。
前回の分析は、最新の統計に基づいたその時点におけるスナップショットでしたが、り踏み込んだ分析をするには、救命率
のある時点における点
の位置だけではなく、時間ともにどのような線
を描いていったのかを読み解く必要があります。
それでは早速、チャートを見ながら世界各国の状況を分析して参りたいと思います。
救命率の時系列推移を分析する
日本と欧米先進国の救命率の比較
以下のチャートは、日本と欧米先進国の救命率の時系列推移を描画したものです。
最新時点において(2020/04/01)、日本はまだ90%近い救命率
を誇っています。
一方、深刻な医療崩壊の危機が報じられているイタリア
,スペイン
は、救命率が日本よりだいぶ低いことが分かります。
救命率の推移の線を見ても、日本が比較的安定的に高い水準を維持している一方で、イタリア
,スペイン
,米国
は不規則に大きく乱れながら推移している傾向が確認できます。
米国は、後で詳しく述べますが、救命率が改善の兆しを見せています。
米国の底力を感じさせるような、救命率の急反発カーブを描いていることがわかります。
救命率の推移の仕方からも、各国の医療状況を推測することができそうです。
そして気になるイギリス
とオランダ
ですが、かなり低い救命率のゾーンを推移していることが分かります。
-
イギリス
3月頭までは良好な救命率を維持していたのですが、3月頭から急速に救命率が悪化し始めます。
時折、小さな反発を見せはしますが、悪化の傾向に歯止めがかかっていません。
最新の救命率は15%前後
であり、非常に険しい医療現場の置かれている状況を端的に表していると考えられます。 -
オランダ
【補足】エントリ冒頭部でも触れたように、オランダの救命率については、政府が正式に発表した数値によるものではないため、現時点では判断保留とすべき分析内容とさせていただきます。
前回のエントリでは、1%以下
という救命率でしたが、3月末になって、まとまった治癒者数が出てきました。
20%弱
まで回復を見せましたが、まだ低い救命率であることに変わりはありません。
今後、どれくらいの速度で救命率の改善を示すことができるか、試練は続きそうです。
欧州諸国の救命率の時系列推移:ドイツが最も優秀、安定感を見せつける
続いて、欧州における救命率の時系列推移を比較してみましょう。
ドイツ
の救命率が欧州では最も良好な推移を辿っています。
ICUの規模もさることながら、強靭な医療体制をうかがわせる救命率の動きを見せています。
3月下旬に70%台
まで下落する局面が見られましたが、そこから急反発を見せ、以降安定した推移を見せています。
フランス
ですが、3月下旬までは救命率が下がる一方で、0%
近くまで下落し続けていましたが、3月下旬からは急上昇し、70%台
を懸命に維持していることが分かります。
ドイツ
,フランス
については、救命率がある時点で大きく改善する様子から、医療体制の拡充の効果が見て取れます。
しかし、それ以外の国では、救命率の大きな改善を見せる点が見当たりません。
そこには医療体制の強さの違いが現れている可能性が考えられます。
ドイツ
はEUの中で最も経済規模も大きく、財政体力も豊富で、医療体制にリソースをつぎ込む余力があります。
フランス
もまた、軍隊を積極的に投入して医療体制のバックアップに全力を尽くすなどしており、その効果が救命率の改善に現れていると考えられます。
スペイン
は、乱高下しながら、辛うじて70%台
を維持できているようです。
一方、財政体力の乏しいイタリアは、救命率の改善が頭打ちの状況に陥っています。
救命率が時間の経過とともに改善しないということは、医療体制が限界を迎えており、これ以上の拡充・改善が困難な状況に陥っている可能性が考えられます。
救命率の優秀な上位国の傾向:素早く回復し、安定する
日本に加え、新型コロナウイルス対策に成功している、上手く対応していると考えられる国々の救命率の推移をプロットしました。
韓国
,カナダ
ですが、共通しているのは救命率が下落しても素早く反転・上昇し、安定軌道に乗せることに成功している点です。
韓国
は、国民側とのコミュニケーションと連携に力を入れ、素早い改善を繰り返しながら、救命率を高位・安定軌道に乗せることに成功した模様です。
カナダ
は、3月上旬から資金面の支援策と一緒に新型コロナウイルス対策(検疫、隔離、渡航禁止、入国制限)を打ち出し、3月下旬に一時救命率が40%
を割り込む場面がありましたが、急激に改善させることに成功しています。
感染拡大の抑制が上手くいっており(今のところ)、若手のトルドー首相の素早い采配が結果につながっていると考えられます。
一方、中国
ですが、世界に先駆けて新型コロナウイルス感染が拡大し、1月下旬に40%
近くまで救命率が下がりましたが、そのあとは強権的な隔離政策を実施し、実に綺麗なカーブを描いて救命率が改善しています。
確かに終息宣言を出しただけのことはあり、見事なまでに救命率を高位・安定させることに成功しています。
ただし──ただし、気になるのは、その救命率のカーブがあまりにも美し過ぎることです。
比較のため、こちらのチャートも見てみましょう。あのダイアモンドプリンセス号
との比較です。
ダイアモンドプリンセス号
の救命率ですが、当時は世界中から日本の対応がイマイチであると散々批判されたものの、最終的にはキッチリと100%
に近い救命率に持ってゆくことに成功しています。
その過程もギザギザとした動きを経て、高位・安定に至っています。
日本の救命率とも比べてみましょう。
公衆衛生・医療レベルが世界最高水準とされる日本(ただし、医療崩壊しない限り)でさえ、小刻みに揺れながら救命率を高位・安定させています。
医療現場の怒涛の展開、それに必死に対応するスタッフの尽力が、この小刻みな揺れに集約されているように思います。
こうして比較すると、世界各国は死に物狂いで奮闘する医療現場や、怒涛の勢いで意思決定と実行を繰り返す政府・官僚機構の懸命な努力を反映するかのように、不規則な乱高下を繰り返しながら、救命率が推移していることが見て取れます。
しかし、中国だけはあまりにもカーブが美しい。
うーむ、中国では現在の世界最高水準を超える医療革命が起きているのか、何か決定的なアプローチを見出したのでしょうか・・・個人的見解ですが、何か違和感のようなものを感じます。
こちらの件については、以下のエントリでも触れましたが、感染の統計に関して何か異変が起きている可能性があります。
概要 中国共産党の情報統制がほころび始めているためでしょうか、公開情報から断片をつなぎ合わせることで、新型コロナウイルスで武漢で死亡した人の人数が、公表された約2500人の10倍~25倍になる可能性が出てきました。 今回のエントリでは、[…]
今、世界では、中国の統計に対する疑念が日に日に高まりつつあり、それを裏付ける海外のニュース・資料を幾つか見つけています。後日、日本語に翻訳してお届けしたいと考えています。
救命率が急反転上昇!底力を見せつける米国
連日のようにニューヨークの悲惨な感染の実態、限界を迎える医療現場の様子が盛んに報じられている米国。
トランプ大統領が数十万人の死者が出るだろう、と国民に覚悟を呼び掛けるほどの深刻な状況のはずですが、意外や意外、救命率は急激に改善傾向を見せています。
感染爆発に直面し、救命率が一時20%
を切るほど急落したものの、そこから一気に反転攻勢に転じています。
なんだかんだ言って非常事態に対して極めて強い抵抗力、タフネスを見せる米国らしさが見て取れます。
テスラモーターズを始め、自動車メーカーに緊急で人工呼吸器の増産を命じるなど、国家総動員体制で新型コロナに臨む米国ですが、さすがリスクマネジメント・危機対応において、その存在感は未だ顕在です。
状況が深刻なことに変わりはありませんが、反撃する力の強さを今後徐々に見せてゆくのではないでしょうか。
このような言い方は適切ではないかもしれませんが、こうしたパンデミックなどの危機対応に、その国の戦争遂行能力が端的に現れると思います。
リーダーシップしかり、経済力しかり、医療スタッフの現場力しかり、公官庁の現場力しかり、です。
それぞれの国ごとの特色を持った、危機対応能力がハッキリと現れているように思います。
どうするイギリス? どうするオランダ? そして、どうなるイタリア?
一方、救命率が未だに低水準で低迷しているイギリス
,オランダ
ですが、もう一度救命率の推移を見てみましょう。
比較のため、日本の救命率を一緒にプロットしています。
低迷するオランダの救命率・集団免疫戦略は続行か
【補足】エントリ冒頭部でも触れたように、オランダの救命率については、政府が正式に発表した数値によるものではないため、現時点では判断保留とすべき分析内容とさせていただきます。
こちらはオランダです。
三角波を描くように、ちょっとずつ改善を見せています。
しかし、改善の幅は、米国やフランス、ドイツと比べるとかなり小さいです。
集団免疫戦略
を採用しているからでしょうか、積極的に新型コロナウイルスの感染を抑制しようと言うスタンスが見られないオランダです。
その政策方針が、小幅な救命率の改善にとどまっていることに、端的に現れているように思います。
そして、その政策方針の維持が露骨に反映されているのが、上昇し続ける致死率
です。
こちらは、オランダの救命率と致命率の推移をプロットしたチャートです。
オランダの致死率が2020年3月5日
から、上昇し続けています。
最新の致死率は、間もなく10%
に到達しようとしています。
救命率が低迷すれば、致死率は上昇し続けます。
今のペースは、半月で6~7%の致死率上昇
といったところでしょう。
オランダの救命率が、いつ低迷を脱するのか焦点になります。
救命率悪化に歯止めがかからないイギリス、救命率反転の時期・上昇の勢いが焦点
こちらはイギリスです。
途中までオランダと同じく集団免疫戦略
を採っていましたが、科学顧問団からの恐ろしいシミュレーションの結果を受けて、急遽方針転換をしました。
しかし、時すでに遅し、救命率の下落に未だに歯止めがかかっていません。
チャールズ皇太子に加え、ジョンソン首相自身さえ新型コロナウイルスに感染するなど、要人に次々と感染が広まる惨状にあります。
シリアスなスピーチを通して国民に心の準備を呼び掛けつつ、厳しい感染抑制政策(隔離、外出禁止)を実行し、何とか立て直そうとしています。
焦点は、救命率の改善がいつから始まるのか
、そしてどれくらい改善するのか
です。
以下のチャートは、イギリスの救命率と致命率の推移をプロットしたものです。
この半月で、6~7%の致命率の上昇
の傾向が確認されています。
救命率の改善が訪れるタイミングが遅くなるほど、致死率は上昇し続けます。
救命率の改善が堅調なものであれば、例えば米国のように改善が継続し続ければ、いずれ高位安定に持ちこめる可能性があります。
中長期的展望に暗雲が垂れこめるイタリア
既に救命率の頭打ちについて触れたイタリアですが、問題はこの頭打ちが長期化する可能性があることです。
改めて、イタリアの救命率のチャートをご覧ください(比較のため日本の救命率をプロットしています)
財政問題の深刻化で、公共サービスのレベルの低下、医療インフラの規模削減などを続けていたイタリアに、今回は最悪と言って良いタイミングで、新型コロナウイルスの感染爆発が発生しています。
救命率は60%弱
で推移していますが、これがさらに改善する兆しはなく、頭を押さえつけられるように推移を続けています。この推移が続くほど、イタリアの致死率は40%
に近づいていきます。
以下のチャートは、イタリアの救命率と致命率の推移をプロットしたものです。
この1カ月で約10%の致命率の上昇
が確認できます。
現在の厳しい医療体制を取り巻く状況が変わらなければ、3カ月後には致命率40%
に到達するでしょう。
日本同様高齢化が進んでいるイタリアは、年齢構成的に見ても、新型コロナウイルスに対して脆弱と言わざるをえません。そこに医療崩壊も加わっており、救命率が低迷を脱するには医療体制の大幅な改善が欠かせないと考えられます。
まとめ
救命率の時系列推移、そして致命率の時系列推移も分析に加えることで、前回よりもさらに踏み込んだ分析・考察をすることができました。
前回は、最新時点における救命率のスナップショットに対する分析でした。
今回は時系列推移を追跡することで、各国の感染対策とその効果がどのようなものであったのか、そしてこれからどれくらい被害を抑えられるのか、それとも被害を拡大させてしまうのか、考察しました。
今後も、こうした時系列推移の分析を交えたエントリをアップしていこうと思います。
参考エントリ
概要 前回に続き、新型コロナウイルス感染の統計データを分析し、新たに得られた知見を共有すべくエントリを書きました。 今回は、救命率(=治療を通して新型コロナウイルスを治療できた割合)を切り口に分析をお届けしようと思います。 国ごと[…]