オバマゲート続報:スーザン・ライス氏が最終日に残した謎のメール
前回のエントリで、オバマゲート疑惑の全体像をお伝えしたのですが、今回はその続報をお届けします。
フリン元中将への盗聴・監視のためのunmasking承認の手続きを主導したスーザン・ライス氏(元国家安全保障顧問)が、オバマ政権最終日、それもホワイトハウスを去る直前に自分自身に宛てて送ったメール
を残していたことが分かりました。
意図が不明のメールが今、米国で謎を呼び、論争を巻き起こしています。
説明のためのスライドを用意しました。まずはこちらをご覧ください。
不可解なメールを送った動機は何か?
一体何のために、こんな不自然な行動を取ったのでしょうか?
最終出社日のオフィスを去る直前に、自分自身に宛ててメールを送るなんて、あまり一般的ではないというか、そうする理由が皆目見当がつきません。
しかし、背景を読み解いてゆくと、どうやら後で誰かが見つけることを見越して、意図的に残した可能性が浮かび上がってきました。
ズバリ言ってしまうと、スーザン・ライス氏とジョー・バイデン氏を守るために意図的に残した証拠 というわけです。何しろこのお二方、2020年米大統領選挙における民主党の顔になる可能性が高いのです。
ジョー・バイデン氏は大統領候補確定、スーザン・ライス氏は副大統領候補選びのレースで最も有力と見られているのです。
もしこの仮説が当てはまるとすれば、欠けたロジックのピースが埋まります──なぜ、あのような不自然なメールを残したのか、その理由が透けて見えてくる、というわけです。
スーザン・ライス氏の謎のメールの全容
まずは、その全容を見て行きましょう。
- メールは、スーザン・ライス氏のオバマ政権最終出勤日、それもホワイトハウスを去る直前に自分宛てに送ったものです。
- メール送信の日付は
2017年1月20日 12時15分33秒
- メール送信の日付は
- メールは、ホワイトハウス顧問(当時)のニール・エグルストン氏の助言を受けて送ったものです。これはスーザン・ライス氏の事務所が公式に認めています。
- 「政権最後の日に自分宛てにメールを送ることは不自然な行動である」と、ホワイトハウス勤務経験のあるK.T.マクファーランド氏は指摘しています。
- 後日誰かが見つけ出して、読まれることを想定して書いたとしなければ、動機が見当たらないと付けくわえています。
- 当の本人は、「当時、自分宛てに送ったメールが(情報公開請求で)開示されることを歓迎する」という声明を発表しています。
- メールが発見されたことが喜ばしい事態であることをスーザン・ライス氏は示唆しています。
- メールの内容は、2017年1月5日の大統領執務室での会議のメモであり、オバマ大統領(当時)とコーミーFBI長官(当時)が会議を主導していた様子が残されています。
- ジョー・バイデン副大統領(当時)とスーザン・ライス国家安全保障顧問(当時)も同席していたものの、会議を主導している様子は記録されていません。会議に同席していただけという印象を与える内容です。
このメールの狙いとは
事実を露骨に捻じ曲げるような真似をすれば政治的致命傷になりかねませんが、事実を巧妙につなぎ合わせる分にはアウトにはならないでしょう。嘘は付いていないからです。
ただし、どの事実を取捨選択したのか?ということからメールの意図の輪郭が浮き彫りになりますね。
公開情報分析では、「どの事実が書かれていて、何が書かれていないか(=隠しているか)」が、推測を進める際に重要になります。
上記の内容、経緯を踏まえると、結果的にスーザン・ライス氏およびジョー・バイデン氏の責任・政治的ダメージを緩和する材料として側面がが浮かび上がってきます。
- この不可解なメールは、スーザン・ライス氏自身が主体的に書いたものではなく、ニール・エグルストン氏の助言に促されて受動的に書いた──もっと言えば、指示に従って書かされたメールであるという解釈が可能
- フリン元中将に対する盗聴・監視を主導していたのは、オバマ氏とコーミー氏であるという印象が強く残る
- 裏を返せば、スーザン・ライス氏とジョー・バイデン氏は会議に同席していただけで、なんら主体的な役割を担っていない印象を醸し出している
オバマ氏とコーミー氏が矢面に立ち、スーザン・ライス氏とジョー・バイデン氏を守る盾のごとき構図になっていることが見えてきます。
メールの具体的な内容とは
続いて、メールに書かれている内容に具体的に迫りたいと思います。
- 出席していたメンバーは次の通りです。肩書きは当時のものです。
- オバマ大統領
- ジョー・バイデン副大統領
- ジェームズ・コーミーFBI長官
- スーザン・ライス国家安全保障顧問
- サリー・イエーツ司法長官代理
- オバマ大統領の発言ですが、
- 責任回避を意識した言葉選びが目立ちます。
- オバマ政権終了後も、フリン元中将に対する盗聴・監視を継続するように念を押しています。
- トランプ政権にロシア関連情報を引き継がせたくない様子がうかがえます。
- フリン元中将に対する違法捜査と起訴を前もって知っていたフシが見られます。
- ジェームズ・コーミーFBI長官の発言ですが、
- フリン元中将とロシアの繋がりに対する懸念を強く主張しています。
- 次期NSA長官に就任予定であったフリン元中将に対する警戒感をあらわにしています。
- フリン元中将に対する(捜査や起訴など)動きがあったら、大統領職を退任した後のオバマ氏に報告することを約束しています。
- オバマ氏が大統領退任後も司法機関や諜報機関に対して隠然たる影響力を有していることをうかがわせます。
開示されたメールの原文を読む
スーザン・ライス氏のメールは、共和党のチャック・グラスレー上院議員(アイオワ州)の情報公開請求によって開示されました。
- チャック・グラスレー上院議員の声明
- 公開されたスーザン・ライス氏のメール(PDF)
このメールを翻訳してみましたので、ご覧ください。
On January 5, Following a briefing by IC leadership on Russian hacking during the 2016 Presidensital election, President Obama had a brief follow-on conversation with FBI Director Jim Comey and Deputy Attoney General Sally Yates in the Oval Office.
Vice President Biden and I were also present.
【翻訳】
1月5日、オバマ大統領は2016年大統領選挙中のロシアのハッキングに関するIC指導部からのブリーフィングを受け、大統領執務室でFBIのジム・コミー長官、サリー・イエーツ副長官と簡単なフォローアップ会話を行った。
バイデン副大統領と私も同席した。
President Obama began the conversation by stressing his continued commitment to ensuring that every aspect of this issue is handled by the Intelligence and law enforcement communities "by the book".
The President stressed that he is not asking about, initiating or instructing anything from a low enforcement perspective.
He reiterated that out law enforcement team needs to proceed as it normarlly would by the book.
【翻訳】
オバマ大統領は、この問題のあらゆる側面が諜報機関と法執行機関のコミュニティによって「規則に従って」処理されることを確実にするための継続的なコミットメントを強調することから会話を始めた。
大統領は、法執行の観点から何かを求めているわけでも、何かを指示しているわけでもないことを強調した。
大統領は、法執行チームは規則に従って行動する必要があることを繰り返し述べた。
【補足】
by the book
: 規則に従って、定石通りに、慣例に従って(杓子定規に)- オバマ氏は、自分が命令を下す形ではなく、諜報機関(=FBI)および法執行機関(=司法省)が規則に従って、粛々と業務を遂行するという構図であることを念入りに確認していた模様。
- オバマ氏が責任回避のための布石を打っている様子が見える。
From a national security perspective, however, President Obama said he wants to be sure that, as we engage with the incoming team, we are mindful to ascertain if there is any reason that we cannot share information fully as it relates to Russia.
【翻訳】
しかし、オバマ大統領は、国家安全保障の観点から、次期チームとの連携の中で、ロシアに関する情報を十分に共有できない理由がないかどうかを確認することを心掛けたいと述べた。
【補足】
- 次期チームとはトランプ政権のこと。
- トランプ政権とロシアの繋がりを懸念し、安全保障的な懸念があることをアピール。
- ロシアに関する情報をなるべく共有したくないので理由を探している様子がうかがえる。
Director Comey affirmed that he is proceeding "by the book" as it relates to law enforcement.
From a national security perspective, Comey said he does have some concerns that incoming NSA Flynn is speaking frequently with Russian Ambassador Kislyak.
Comey said that could be an issue as it relates to sharing sensitive information.
President Obama asked if Comey was saying that the NSC should not pass sensitive information related to Russia to Flynn.
【翻訳】
コミー長官は、法の執行に関連しては「規則に従って」進めていると断言した。
国家安全保障の観点から、コミー長官は、次期NSA長官のフリンがロシア大使のキスリャックと頻繁に会話をしていることに懸念を持っていると述べた。
コミーは、機密情報の共有に関連して、それが問題になる可能性があると述べた。
オバマ大統領は、コミーがNSCはロシアに関連する機密情報をフリンに渡すべきではないと言っているのかと質問した。
【補足】
- コーミーFBI長官、次期NSA長官のフリン元中将に対する懸念をアピールする
- コミーFBI長官の口から、フリン元中将に対する懸念や、機密情報引き継ぎの拒否の見解を述べさせようとしている様子がうかがえる
- 主犯はコーミーFBI長官であることが印象付けられる内容
Comey replied "potentially".
He added that he has no indication thus far that Flynn has passed classified information to Kislyak, but he noted that "the level of communication is unusual".
The President asked Comey to inform him if anything changes in the next few weeks that should affect how we share classified information with the incoming team.
Comey said he would.
【翻訳】
コミーは「その可能性があります」と答えた。
コミー氏は、これまでのところ、フリンがキスラックに機密情報を渡したという兆候はないと付け加えたが、「コミュニケーションのレベルは異常だ」と指摘した。
大統領は、今後数週間の間に、次期チームとの機密情報の共有方法に影響を及ぼす可能性がある何か変化があれば、報告するようにコミーに求めた。
コミーはそうすると述べた。
【補足】
- フリン元中将に国家機密漏えいの証拠は見つけられないことを認めている。
- すでに盗聴していたが、証拠が見つからなかった。
- コミーFBI長官は、オバマ政権終了後もオバマ大統領と連携することを確認している。
- 後付けであるが今となっては「次期チームとの機密情報の共有方法に影響を及ぼす可能性がある何か変化」が、フリン元中将に対する冤罪スキャンダルであることが濃厚である。
- 次期チーム=トランプ政権が、ロシアを繋がっている疑惑があるので、機密情報の共有方法を考え直さなければならないという意味か。
- 「今後数週間」という期間の間に何が起きるのか知っているようなそぶり
- オバマ政権は、この時点でフリン元中将に対する冤罪スキャンダルが表面化する時期を把握していた可能性がある。
- フリン元中将のスキャンダルが表面化したら、大統領退任後のオバマ氏に知らせることをコーミー氏は約束しているフシが見受けられる。
- FBIをはじめとする官僚機構に対して、オバマ氏が院政を敷く様子を匂わせている。
まとめと今後
オバマゲート疑惑に関連する資料が徐々に公開されるようになりました。
議員による情報公開請求により、機密解除された文書の開示が進んでおり、最近では FBIが盗聴したフリン元中将の会話内容
についても公開されたのではないかと記憶しています。
オバマゲート疑惑の行方は、米大統領選挙の行く末、ひいては日本を取り巻く情勢にも無視できない影響を与えるものと考えられます。米国の持つ影響力はまだまだ健在です。
今後も、目を離せないスリリングな展開が続くと見られますので、引き続きウォッチして参りたいと思います。
続編エントリができました!
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