武漢ウイルス研究所への助成金を巡って大荒れの米国アカデミア
前回のエントリで、オバマ政権時代に武漢ウイルス研究所への助成金が承認され、ファウチ米国アレルギー感染症研究所所長の主導でウイルス研究が委託されていたことを紹介しました。
その委託された研究をトータルコーディネートしていたのが、感染症研究の世界では著名なNPO・EcoHealthAllianceなのですが、今度は、米国国防総省(ペンタゴン)からも助成金が支払われていたことが分かり、共和党の議員が書簡で公開質問状を送ると言う騒ぎになっています。
さらに、EcoHealthAllianceへの助成金を打ち切った米国立衛生研究所(NIH)に対して、米国アカデミアは猛反発し、米国内が騒然としています。
そして、米国アカデミアを照準に定めた「チャイナ・イニシアチブ計画」=「米国内の中国のスパイ・工作員根絶計画」が、大きな展開を見せようとしています。
歴史が今まさに大きく動こうとしている米国の情勢を、自分なりに分かりやすく咀嚼してお届けしたいと思います。
まずは、以下のスライドをご覧ください。今回お伝えする内容を図に集約したものです。
国防総省から武漢ウイルス研究所への資金提供の疑惑
米国国防省から数100万ドルの助成金が、EcoHealthAlliance経由で武漢ウイルス研究所へ流れたのではないかという疑惑が持ち上がっています。
こちらの図をご覧ください。
- 米国防総省に対して、武漢ウイルス研究所への資金提供についての質問状を送ったのは、共和党のガイ・レシェンタラ下院議員(Rep. Guy Reschenthaler )です。
- マーク・エスパー国防長官に宛てて、資金の用途に付いて質問状を送りました。
- 同議員は、米国防総省の650万ドルの助成金が、武漢ウイルス研究所とのつながりが深い EcoHealthAlliance に支払われたことについて憂慮しています。
- 助成金は「西アジアにおけるコウモリを介した人畜共通感染症の出現リスクの理解(understanding the risk of bat-borne zoonotic disease emergence in Western Asia)」というテーマで拠出されています。
- EcoHealthAlliance経由で、米国立衛生研究所(NIH)の助成金370万ドルが、ウイルス研究の委託で支払われているとされています。
- 助成金の二次的な受け取り手が武漢ウイルス研究所であることは、米国立衛生研究所も把握しています。(米国立衛生研究所 学外研究担当副部長 マイケル・ラウアー博士)
- EcoHealthAllianceを通った資金の流れについて、調査が必要であると同議員は主張しています。
- EcoHealthAllianceは、感染症研究の世界では実績のある著名なNPOです。
- 世界各地でコウモリのウイルスについて研究を長年続けてきました。
- 武漢ウイルス研究所との付き合いも15年以上になります。
- COVID-19(=新型コロナウイルス)のパンデミックの発生源である武漢にある武漢ウイルス研究所は、米国政府の調査対象になっており、米国立衛生研究所は米国政府の指示の下、EcoHealthAllianceへの助成金を急遽打ち切りました。これは異例のことです。
EcoHealthAllianceについて調べると
EcoHealthAllianceについて調べましたが、代表を務めるピーター・ダスザック博士は、自ら世界各地を飛び回りフィールドワークをイキイキとこなす、根っからの研究者であるように感じられました。
- TED MED でもユーモアたっぷりの講演をして好評を博していました。 YouTube
感染症研究を始めるきっかけは、HIV/AIDSとの出会いとのことでした。このきっかけは、奇しくもファウチ所長が感染症研究を始めた動機とまったく同じです。
これまでに長年、世界中の研究機関と共同で、コウモリなどの野生動物が保有するウイルス(特にコロナウイルス)について研究調査をし、論文をいくつも発表するなど、立派な功績のある機関でした。
しかし残念ながら、渦中の武漢ウイルス研究所との繋がりの深さが裏目に出てしまっているようです。
速やかに事実関係が明らかにされ、疑いが晴らされることを願わずにはいられません。
世界的な疑惑の渦中に巻き込まれてしまったEcoHealthAllianceですが、米国アカデミアは非常に同情的であり、米国政府の方針に対して強く反発しています。
続いてその動きに付いて述べたいと思います。
EcoHealthAllianceと武漢ウイルス研究所に対する米国政府の仕打ちに強く反発する米国アカデミア
新型コロナの発生源であるとして、武漢と武漢ウイルス研究所との関係がある組織・機関に疑いを抱き始めた米国政府。その姿勢に対して、米国のアカデミア(=大学、研究機関、科学者、研究者)は強く反発をしています。
その情勢を以下のチャートにまとめました。ご覧ください。
- 米国アカデミアは、突然助成金を打ち切られたEcoHealthAllianceだけでなく、武漢ウイルス研究所についても同情的です。
- 武漢ウイルス研究所のスタッフと一緒に働いた経験がある防疫学者ジョナ・マゼット氏(カリフォルニア大学デービス校)は、石正麗氏と武漢ウイルス研究所を強く擁護しています。Link
- 米国アカデミアは、トランプ政権の方針に従い助成金を打ち切った米国立衛生研究所(NIH)の姿勢を強く批判しています。
- ボストン大学・国立新興感染症研究所のジェラルド・キーシュ氏は、「米国立衛生研究所は恐ろしい前例を作ってしまった」と厳しい言葉で非難しました。
- ジェラルド・キーシュ氏は、同僚に声をかけ、米国立衛生研究所に対して異議を唱えるための行動を起こすとしています。
- 元米国国際開発庁(USAID)のデニス・キャロル氏は、「トランプ政権と中国の政治的な争いに科学を巻き込んだ」と批判しました。
- レムデシビルの臨床導入のキッカケとなる実績を作ったヴァンダービルト大学のウイルス学者、マーク・デニソン氏は「EcoHealthAllianceの研究ほど重要なものはありません。彼らの研究なしでは、レムデジビルに関する私たちの研究は前に進めなかったでしょう」と、EcoHealthAllianceを擁護しました。
- ボストン大学・国立新興感染症研究所のジェラルド・キーシュ氏は、「米国立衛生研究所は恐ろしい前例を作ってしまった」と厳しい言葉で非難しました。
このように、トランプ政権とその方針に従う米国立衛生研究所を強く批判し、EcoHealthAllianceと武漢ウイルス研究所に同情し、擁護する声は、米国アカデミアでは枚挙にいとまがありません。
一方で、現在米国のアカデミアでは、ハーバード大学の生物化学学部長が中国のスパイ疑惑で逮捕されるなど、チャイナマネーにまつわるスキャンダルの火の手が燃え広がっています。
- 米国政府は、アイビーリーグをはじめとする一流大学の科学者・研究者をターゲットに捜査を進めていることが明らかになりつつあります。
- 米国政府の捜査において、ボストン地域は特に重点的なターゲットであることが明らかになっています。(マサチューセッツ州 アンドリュー・レリング連邦検事談話)
こうしたアカデミアに対する捜査・摘発の背景には、トランプ政権が進めている、中国のスパイ・工作員を米国内から根絶することを目的とした「チャイナ・イニシアチブ計画」があると考えられます。
中国のスパイ・工作員を根絶する「チャイナ・イニシアチブ計画」
2018年、トランプ政権は米国司法省の下で、連邦タスクフォースを設立しました。
そのタスクフォースは、テキサス州・ニューヨーク州・カリフォルニア州・アラバマ州の連邦検事で構成されており、「チャイナ・イニシアチブ」という目標を掲げています。
では「チャイナ・イニシアチブ」とはどういった目標なのでしょうか?
それは「米国の大衆や政策立案者に影響を与えようとする外国人工作員を根絶すること」です。
表題に「チャイナ」が入っていることから察せられるように、ここでいう外国人工作員とは中国のスパイ・工作員のことです。
この「チャイナ・イニシアチブ」の計画における第一目標は、米国のアカデミアに浸透した人民解放軍のスパイを特定することにあります。
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先ほど触れたハーバード大学のリーバー学部長の逮捕と同じ日に、連邦タスクフォースはボストン大学の物理化学・生物医学工学科の大学院生・葉燕青(Ye Yanqing)容疑者の起訴状を公開しました。
- 葉燕青(Ye Yanqing)容疑者は、人民解放軍の将校でした。
- FBIは全国に指名手配をしましたが、すでに中国に逃亡したものとみられています。
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また同タスクフォースは、2019年10月、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターから21個の細胞サンプルが入った小瓶を盗んで持ちだそうとした容疑で、がん細胞研究者・鄭肇松(Zheng Zaosong)容疑者を刑事告発、2019年12月に逮捕しました。
- 鄭肇松(Zheng Zaosong)容疑者は、ハーバード大学をスポンサーに付けて2018年から研究者として同医療センターで勤めていました。
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「チャイナ・イニシアチブ」の計画に携わる連邦タスクフォース関係者の話は次の通りです。
「中国とつながりのある科学者、特にボストン地域や米国アカデミアは相当な警戒感を抱いている」
「ハーバード大学のリーバー学部長の逮捕は、終わりではなく始まりである」
「トランプ政権は、産業スパイの捜査・摘発に力を入れるだろう」
「特定の学校に捜査を限定することはない」
「米国アカデミアに対する連邦政府の捜査・起訴はこれから全米で進行するだろう」
- 一方、民主党は、トランプ政権が推し進める「チャイナ・イニシアチブ」に対して対抗するキャンペーンを展開しています。
- ジェイミー・ラスキン下院議員(メリーランド州)、ジュディ・チュー下院議員(カリフォルニア州)は、FBIに対して、「中国人科学者が人種差別的な被害を受けている恐れがある」として質問状を送りました。
中国の産業スパイに対する捜査を巡って、トランプ政権&共和党と、民主党が真っ向から対決する構図が鮮明化しています。
まるでハリウッド映画のシナリオを読まされているのかと思いこんでしまうような展開が繰り広げられています。
米国が動く時、世界も否応なく動きます。
ましてや同盟国である日本は、その動きを拒むことはできないでしょう。
日本国内においても、「チャイナ・イニシアチブ」を遂行するようトランプ政権が求めてくるのは、そう遠くない未来かもしれません。
もし、その運命の日が来たら、日本政府はどっちつかずの態度を取り続けることは、難しいのではないかと思われます。
目まぐるしい米国情勢から目を離すことはできませんね。
今後も継続的にウォッチしてまいりたいと思います。
注目エントリ
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情報源
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